ニス
弦楽器は、ヨーロッパの長い歴史と文化のもとで発展してきました。私はフィレンツェでヴァイオリン製作をしていましたが、高級な古い家具の修理などの仕事も頼まれたことがあり、ヴァイオリンの頭の形やパフリングやf孔のデザインと家具との親密性を感じたことが多くあります。美しい曲線によって作られたテーブルの回りにパフリングの入った物や、幸運にも保存されていた17世紀の北イタリアの家具の中に健康状態の良いストラディヴァリのニスと同じような物を見かけたりもしました。古い楽器が当時の家具作りと同じ技術によって作られていたわけです。ところが近代の木工工芸品などは工場で大量に安く作られ、多くの仕事は機械によってなされ、接着剤、吹き付けの堅牢なニスが多用されています。
ニスに関して書くなら本が一冊書けるので、今それについて詳しくは述べませんが、ストラディヴァリが使っていた時代のニスの成分は年月とともに酸化してしまって、現代の発達した科学を使っても解明することはまだできないのです。しかしなぜその後そのニスが使われなくなったのかに関して、一つ興味深い理由があります。17世紀の終わり頃シェラック (gomma lacca 伊)という樹脂が輸入されはじめ、ヨーロッパの間でも使われ始めました、なぜならば以前に使われていたニスより使いやすく、しかも丈夫で値段も安かったからです。18世紀から19世紀にかけての楽器作りや家具屋にとっては、大変便利だったわけです。不幸にも18世紀の半ばからクレモナでもこのニスが使われはじめ、たくさんの楽器が台無しになってしまいました。ニスは年月がたつにつれて変化していきますし、材木の繊維の結晶化が進んできます。できたときの楽器が良くても200年後のニスによる弊害を予測するのは困難だったのでしょう。近代になってから楽器作りがそのことに気ずき始めたわけです。
おわかりになったと思いますが、楽器は敬意ある歴史と文化の遺産です。300年前の技術で楽器が未だに作られているのは、それなりの理由があるのです。楽器のニスは大変デリケートです。ウイスキーの一滴でもニスを損なうことがあります。楽器は、掃除一つにしても現代の家具と同じようにはできないです。洗剤などは絶対使わないで下さい。化粧品に使用されている成分にもニスに影響を与えるものが多く使われています。熱にも弱く、暑いところに置いておくとニスが溶けたりします。急激な温度や湿度の変化には気を付けてください、割れやはがれの原因の一つです。特に日本の夏は湿度が高いので注意が必要です。
最近の事例から
モダンイタリアの楽器(オイルニス)に、弦楽器専用として販売されている磨きオイル(イダオイル)を使用して、ニスの表面全体が白濁した。(理由と対策)この磨きオイルにはテレピン湯が含まれていると思われ、多用するとニスが溶け、白濁する。こうしたたぐいの商品はよく注意して購入し、多く使いすぎないこと。万一トラブルが起こったら、専門の職人に任せましょう
ポリッシュ、オイルについて
楽器みがき用のいわゆるPolichやOilなどが販売されていることがまれにありますが、これらは高価な楽器にはどれもおすすめすることはできません。目的などによっていろいろな成分の配合が存在しますが多くの場合磨き粉とワックスの成分が含まれていることが多く、これらを使用すると楽器がきれいになったように見えますが楽器表面を磨き粉で傷つけて本来ニスに使われないはずの成分(ワックス)をニスの表面にのこしているのです。使い続けるとニスに害がありますし、暖かい日など汗などでニスの表面のワックスがとれて表面の艶がなくなって汚くなってしまったりします。 また溶剤が含まれているものは溶剤の質、量、また楽器のニスによっては、ニスが汚くなることもあります。楽器修理職人は溶剤がかなり多く含まれている物を使いますが、それなりの知識と熟練した腕と経験が必要ですので一般の方はまねしないでください。
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